認知症による帰宅願望、その原因と改善に向けた対応
認知症でよくみられる行動について、特徴・原因・一般的な対策を症状ごとに紹介します。
認知症による帰宅願望は「BPSD(行動・心理症状)」が原因と考えられ、今いる場所に不安を抱くと発症リスクが高まります。そこで、症状が出た際は、本人の気持ちに寄り添った対話を心がけ、今いる場所に安心感を抱いてもらうように対応します。このような対応が症状の軽減とともに、介護負担の軽減にもつながります。
<もくじ>
●帰宅願望が起きる原因とは
●帰宅願望への対応
●BPSD(行動・心理症状)とは
●帰宅願望や認知症全般で困ったらここに連絡(相談先)
●まとめ
認知症による帰宅願望は、認知症が原因で発生するBPSD(行動・心理症状)のひとつです。
帰宅願望は、本人が「家に帰る」と訴えたり、自宅や施設を出ようとする行為のことです。認知症の進行度にもよりますが、適切に対応することで、症状を軽減させるとともに介護の負担を減らすこともできます。
帰宅願望への対応では、まず本人の訴え(気持ち)に耳を傾け、帰りたい理由を理解することからはじめます。帰りたい理由や、そこに行きたい理由などを理解し、本人の気持ちに寄り添った対話で心を落ち着かせましょう。こうした対応により、本人は安心感を得ることができます。
この安心感が、対応の鍵となります。
そこで、このコラムでは帰宅願望の原因や特徴、そして症状の軽減に向けた付き合い方などについて紹介します。自宅での介護だけでなく、施設に入居している高齢者の家族が、施設の介護方針や状況を理解する際にもお役立てください。
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多職種でしっかり対応してまいります。
帰宅願望が起きる原因とは
認知症による帰宅願望は、認知症が原因で発生するBPSDのひとつです。この症状は、不安や焦り、孤独感などにより本人の気持ちが不安定になることで発症します。
時折、認知症の方は「今、この場所にいる理由」が分からなくなることがあります。その結果、「自分が安心感を得られる居心地の良い場所へ行きたい」と願うようになります。これにより、帰宅願望の症状があらわれます。
夕暮れ症候群による帰宅願望
「夕暮れ症候群」は、帰宅願望が起きる要因のひとつとしてよく知られています。屋外が薄暗くなることで本人が不安を感じ、「家に帰りたい」と訴えることから名づけられました。夕暮れ時に特に顕著になるこの症状は、ホームシックなど、認知症の方に限らず多くの人に見られる感情ですが、認知症の方の場合、不安が増すと冷静さを保つことが難しくなります。
夕暮れ症候群によって引き起こされる帰宅願望は、日が暮れるにつれて強まります。そこで、特にこの時間帯には、適切な対応が必要になります。
帰りたい先は自宅だけではない
帰宅願望というと、入居している施設から住み慣れた自宅へ向かうものと考えられがちですがそれだけではありません。
帰りたい先は、(現在の)自宅以外の場合もがあります。また、自宅介護の場合でも自宅以外の場所へ帰りたいと訴えるときがあります。この願望の向かう先は、前述した通り「自分が安心感を得られる居心地の良い場所」になります。そのため、状況によっては家族がいる自宅ではなく、心の許せる親友が住む場所などに向くことがあります。
また、認知症になると、現在自分がいる場所や時間を把握することが難しくなります。その結果、過去に心地良い時間を過ごした場所、例えば「幼少期を過ごした故郷」などに向かうこともあります。
帰宅願望への対応
「家に帰りたい」という言動や「外に出ようとする」行動を無理に抑えつけるような対応はやめましょう。また、「時間がないのであとで聞きますね」など、その場しのぎの対応も同様です。どちらも、適切な対応とはいえません。また、玄関に鍵をかけるなど、身体に制限をかける方法を安易に行うこともやめましょう。
帰宅願望への対応では、まず本人の訴え(気持ち)に耳を傾け、帰りたい理由を理解することからはじめます。帰りたい理由や、そこに行きたい理由などを理解し、本人の気持ちに寄り添った対話で心を落ち着かせましょう。こうした対応により、本人は安心感を得ることができます。
帰宅願望は、今いる場所に対する不安のあらわれであることが多い症状です。そこで、今いる場所に安心感を抱いてもらうことで症状の軽減が期待できます。ご本人に寄り添った対応をすることで「ここには自分の気持ちを分かってくれる人がいる」と感じてもらえることが大切です。
次に、対応する際のポイントをいくつか紹介します。
肯定的な対話を心がける
帰宅願望があらわれた際には、いきなり理由を尋ねるのではなく、「どこに行きたいのですか?」や「何かお困りですか?」といったように優しいアプローチを心がけ、帰りたい理由をやわらかく引き出しましょう。
また、本人の話(理由)を否定することは、不安や混乱を招くため避けるべきです。本人の訴えにじっくり耳を傾け肯定的な対応を取りましょう。これにより、理由を深く聞き出すことができ、不安を落ち着かせることができます。
「帰宅願望は誰にでもある」と心がける
故郷を懐かしんだり、ホームシックになったり、帰宅願望は認知症の方に限らず普通の人も持っている自然な感情です。普通の人でも、そんな感情を誰かに相談したとき、「仕方がない」と抑え込まれるような対応をされると、不安が増してしまうことがあります。
認知症の方も同じです。
訴える内容は認知症に影響されるものになっていますが、認知症の方もやはり不安なのです。相手の気持ちに寄り添った対話を心がけましょう。
普段の生活環境を整える
本人が普段から心穏やかに過ごせるように環境を整えることも、症状を軽減させる効果が期待できます。窓辺のソファ、リビングのテーブルセット、自室など、本人が落ち着きを感じるスペースを観察し、その場所を居場所として認識してもらいます。
ただし、生活環境を整える際には家族の都合だけでなく、本人の個性や趣味などを尊重することも忘れずに取り入れましょう。例えば、好きな絵を飾ったり、花を生けたり、好きな音楽を流すなど、本人の好みを重視します。あくまで本人がリラックスして安心できる場をつくることが目的です。様々な工夫が逆に本人にストレスを与えてしまうことがないように配慮も必要です。
家の役割を担ってもらう
認知症になると、中核症状として記憶機能、見当識機能、実行機能、認知機能などに障害があらわれます。これらの障害をもとにして二次的に発症するのが、「BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia~行動・心理症状)」と呼ばれる周辺症状です。
BPSDでは、徘徊や暴言、暴力などの行動的な症状や、うつ病や妄想などの心理的な症状があらわれ、時に周囲を驚かせる行動を取ることがあります。
また、BPSDは「身体的要因」「環境的要因」「心理的要因」により症状が発症します。
身体的要因としては、他の健康問題に起因する痛みや違和感、脳機能の問題、薬剤の副反応などがあげられます。環境的要因としは、周囲の不適切な反応、人間関係・生活環境の変化、孤独感などがあげられます。また、心理的要因としては将来への不安、焦り、生活でのストレスなどがあげられます。
ただし、どれが要因で発症したのであっても本人の訴え(気持ち)に耳を傾け理解したり、行動を観察したりする「気持ちに寄り添った対応」を取ることに変わりはありません。このような対応は、症状の軽減につながり、認知症の方の「生活の質(QOL)」を高めることにもつながります。また、これによって介護者の負担も軽減されます。
帰宅願望もBPSDの症状のひとつであることから、基本的な対応は変わりません。
ただし、BPSDの症状が重くなると、ここで紹介している基本的な対処では対応できなくなることがあります。その際は無理をせず、早めに専門家、専門機関へ相談しましょう。
帰宅願望や認知症全般で困ったらここに連絡(相談先)
認知症と一言でいっても、「アルツハイマー型認知症」や「レビー小体型認知症」など、認知症のタイプによってBPSDの症状や対応も異なります。
そこで、帰宅願望などの認知症の症状を疑ったり、症状が悪化した際には、ケアマネージャーなどの専門家や専門機関へ相談し適切な指導を受けましょう。正しい対応を早期に行うことは、認知症自体の進行を遅らせることや、症状の軽減に効果的で、さらには認知症の方だけではなく家族の「生活の質(QOL)」の向上にもつながります。
そこで、帰宅願望や認知症全般に関する主な相談先を紹介します。
(1)一般的な医療機関(かかりつけの医療機関)
(2)認知症専門外来や全国もの忘れ外来
(3)地域包括支援センター
まずは、一般的な医療機関やかかりつけの医療機関を尋ねてみましょう。
また、場合によっては認知症専門外来や「全国もの忘れ外来」を利用します。もの忘れ外来では、物忘れが自然な老化によるものか、病的なものかを診断し適切な治療を行います。
地域包括支援センターでは、高齢者やその支援者に対して、総合相談、介護予防ケアマネジメント、権利擁護、包括的・継続的ケアマネジメント支援などの幅広いサービスを提供しています。
介護の問題、健康面の悩み、金銭的な問題、虐待など、様々な相談に対応しています。高齢者本人や家族が、どのような小さな心配ごとでも相談できるよう、様々な専門スタッフが配置されています。
地域包括支援センターは、各市区町村に設置され、利用はほとんどの自治体で無料です。自治体のホームページなどで担当するセンターの情報を確認しましょう。
まとめ
帰宅願望への対応では、まず本人の訴え(気持ち)に耳を傾け、帰りたい理由を理解することからはじめます。帰りたい理由や、そこに行きたい理由などを理解し、本人の気持ちに寄り添った対話で心を落ち着かせます。これにより、今いる場所に安心感を抱いてもらうことで、症状の軽減を期待することができます。
また、認知症を疑ったり、症状が悪化した際には、一人(家族だけ)で悩むのではなく、専門家や専門機関へ相談し適切な指導を求めましょう。
時には、施設を利用して本人と一時的に離れることも必要です。重いストレスを抱えたり、自己嫌悪に陥る前に適切なサポートを求めましょう。
デイサービスやショートステイなどで介護施設を利用する場合には、介護福祉士や認知症ケア指導管理士の資格を持つ職員がいる施設を選ぶと、より安心した認知症ケアが受けられます。
認知症の方がより穏やかに暮らすためには、専門家(機関)、家族、社会が一丸となって支えることが大切ですが、そこには「ともに暮らす(生きる)家族」が幸せになることも不可欠です。そのためには、認知症と上手に付き合っていくことが大切です。
今回のコラムが、認知症の高齢者とご家族が幸せに過ごす一助になれば幸いです。
【監修】
新井
アズハイムでホーム長やエリア長等現場経験を経て、現在はホームの入居相談を担当。
介護は一人で抱え込まない。介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)、デイサービス、ショートステイを提供するアズハイム。
多職種でしっかり対応してまいります。
<参考文献>
厚生労働省「BPSD:認知症の行動・心理症状」
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0521-3c_0006.pdf
厚生労働省「厚生労働省の認知症施策等の概要について」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000031337.pdf
厚生労働省「高齢者向け住まいにおける認知症ケアや看取り、医療ニーズ等の重度化対応へのあり方に関する調査研究」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/72_nomura.pdf