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認知症の方がガスコンロの火をつけっぱなしにしてしまう理由(認知症の方の火災事故対策)

認知症でよくみられる行動「全般」について、特徴・原因・一般的な対策を紹介します。

認知症の方は、注意力が低下しやすく、ガスコンロにかけた鍋などの火を消し忘れることがあります。そのため、ガスコンロから火を使わない「IHクッキングヒーター」へ取り換えるご家庭もあります。しかし、認知症の方本人が使い慣れていない場合が多い、また新しい作業を覚えなくてはならなくなることから、これがストレスになって認知症の症状を悪化させてしまうこともあります。

そこで、今回は火災や事故対策で注目される認知症の方向けに開発された「安全装置付きのガスコンロ」について紹介します。
また、認知症の方が料理を続けるメリットや、その際に家族などの介護者が心がける対応についても紹介します。

<もくじ>
●認知症の方がガスコンロの火をつけっぱなしにしてしまう理由
●ガスコンロの火のつけっぱなしを防止する(基本的な対策)
●IHクッキングヒーターの安全性と使い勝手(QOLの向上と介護の負担軽減)
●認知症の方、高齢者の方の「着衣着火」対策も忘れずに
●料理の楽しみを取り上げると認知症が悪化する可能性がある
●認知症が悪化すると、BPSDを発症する場合がある。
●認知症の方への基本的な対応
●認知症の代表的な症状(特徴)
●とにかく早めの相談が大切
●認知症で困ったらここに連絡(相談先)
●認知症の予防や改善に大切なのはコミュニケーション
●外部からの刺激は認知症の予防や改善に効果的
●まとめ

介護は一人で抱え込まない。
介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)、デイサービス、ショートステイを提供するアズハイム。
多職種でしっかり対応してまいります。

認知症の方がガスコンロの火をつけっぱなしにしてしまう理由

認知症の方は、記憶機能、見当識機能、実行機能、認知機能などに障害が生じるため、頻繁に物忘れなどが起き判断力も低下します。これらの症状は「中核症状」と呼ばれ、認知症の方によく見られる特徴です。

例えば、ガスコンロで調理をしているときに誰かが訪ねてくるなど、他のことに注意が向かうと、今まで行っていた調理を忘れてしまうことがあります。このような状況は認知症の方に限ったことではありませんが、認知症の方の場合、鍋ややかんを火にかけたまま忘れてしまうことが多いのです。

東京消防庁のデータによると、高齢者による火災は、高齢者以外の人が起こす火災に比べて、死亡リスクが約4.5倍高いとされています。このリスクを軽減するためにも、安全装置が付いたガスコンロの利用を検討したいところです。

ガスコンロの火のつけっぱなしを防止する(基本的な対策)

認知症の方が日常生活で自立した行動を取りたがるのは極めて自然なことです。
しかし、家族がそれを理解せず、認知症の方が望む行動を無理に抑えつけると、ストレスが溜まり、それが原因で症状が悪化することがあります。そのため「料理をしたい」という本人のやる気をそぐような対応はおすすめできません。
代わりに、認知症の進行度にもよりますが、本人のやる気をそがないような安全対策を第一に考えましょう。
次からは、ガスコンロの火のつけっぱなしを防止する安全対策について紹介します。

家族やヘルパーさんなどがいる時間に料理をしてもらう

認知症の方がガスコンロで料理をする場合、家族や介護サービスの訪問ヘルパーさんがいる時間を選びましょう。このようにすることで、火の消し忘れがないかを確認しやすくなり、万一の事態に迅速に対応できます。

介護を受ける本人のやる気をそぐことがないよう、過剰に調理に介入することなく見守るように心がけることが重要です。このバランスを上手にとりながら、安全な料理の場を提供することで、認知症の方が日常生活の中で自立した活動を楽しむことができます。

ただし、認知症の進行状況によっては、このような対応が難しい場合があります。

安全装置付きのガスコンロに取り換える

安全装置付きのガスコンロは、他のことに気を取られて、料理をしていたことを忘れるという事故を防ぐための優れた機能を備えています。この種のコンロには「SIセンサー」などの高度な技術が搭載されており、以下のような働きをします。

(1)センサーが温度を感知し、およそ250℃になるとガスを自動的に止め、自然発火などのリスクを減らす。
(2)ふきこぼれなどで火が消えてしまった際に自動的にガスを止める。
(3)コンロの火を消し忘れても内蔵されたタイマーが燃焼時間をカウントし自動で消火する。

これらの機能により、認知症の方が誤って火をつけっぱなしにしてしまうリスクを大幅に減らすことができます。これによって、家族や介護者は、より安心して本人に調理を任せることができます。

認知症の方向けに開発されたガスコンロに取り換える

認知症や高齢者の方の安全にフォーカスしたガスコンロの開発が進んでいます。
ガス機器メーカーの「株式会社Rinnai(リンナイ)」さんでは、認知症の方の安全を考慮したガスコンロを開発しています。実際に認知症の方に使用してもらいながら、そのフィードバックを基に改善を重ねてきた商品であることから、随所に認知症の方の行動特性や気持ちに寄り添った以下のような工夫が施されています。

(1)ゴトクやバーナー周りを黒色に統一しコンロの炎を見えやすくした。
(2)左コンロは緑色、右コンロはオレンジ色のように、コンロとその操作部を揃えて配色したことで操作・判断がしやすくなった。
(3)バーナーの中央に鍋が置きやすいようゴトクを大きくしているため、安定して置くことができる。
(4)注意を促す「音声案内」を見直した。ゆっくりとした口調や表現、フレーズの間(ま)など、やさしく聞き取りやすい音声に改良した。

特に、「(4)」の音声案内いついては、認知症の方をモニタリングして開発された仕様であるため、他の安全装置付きのガスコンロよりも注目される点です。また、安全装置の警告ブザー音だけでは「音が鳴っている理由が分かりづらい」という課題にも対応しています。

IHクッキングヒーターの安全性と使い勝手(QOLの向上と介護の負担軽減)

IHクッキングヒーターは、火を使わないという安全性から高齢者や認知症の方がいるご家庭で注目されています。
しかし、多くの高齢者はガスコンロでの調理に馴染みがあります。特に、認知症の方の場合、過去の生活習慣(記憶)に基づいて行動することが多いため、IHクッキングヒーターの使い方を覚えることがストレスとなり、症状を悪化させてしまうことがあります。

そこで、このような場合は、なるべくならガスコンロでの調理をすすめて、周りが適切にサポートするようにしましょう。これにより、認知症の方の「生活の質(QOL~Quality of Life)」を向上させることができます。また、介護者の精神的な負担を軽減することにもつながるため、家族の「生活の質(QOL)」も向上します。
IHクッキングヒーターは安全機能に優れていますが、認知症の方にとって使い勝手が良いかどうかをしっかり判断しましょう。

認知症の方、高齢者の方の「着衣着火」対策も忘れずに

認知症の方や高齢者は、日常生活の中でさまざまなリスクに直面しています。特に、ガスコンロを使用する際には「着衣着火(ちゃくい・ちゃっか)」の危険性があり、これが重大な事故につながることもあります。
東京消防庁によると、2018~2022年の5年間で、着ている服に着火した火災で亡くなった人は13人、ケガをした人は213人に上っています。さらに、出火原因の約8割がガスコンロに関連しています。
認知症の方は注意力が低下するため、特に着衣着火の安全対策が必要です。

以下に、このような事故を防ぐためのポイントを紹介します。
(1)調理中には、マフラー・ストールなどを外し、服の袖や裾が炎に近づきすぎないよう注意する。
(2)鍋などの近くでは、炎が見えなくても着火の危険がある。そこで、鍋などの底から炎がはみ出さないよう火力を調節する。
(3)ガスコンロの上や奥の物を取るときなど、こまめに火を消し、衣服の袖や裾に燃え移らないよう注意する。できれば、ガスコンロの周りに物を置かないようにする。

<引用(参考)>
東京くらしWEB(東京都生活文化スポーツ局消費生活部)

料理の楽しみを取り上げると認知症が悪化する可能性がある

認知症の方にとって、日常生活で楽しみを感じる活動は非常に大切です。特に、料理がそのひとつになっている方は多いと思います。先ほども触れたように、認知症の方のやる気をそぐと、ストレスが溜まり症状が悪化することあるので、安全対策には注意が必要です。

ガスの元栓を閉めるなどしてガスコンロを使わせないという対応は、認知症の症状がかなり進んだ状態で検討するべきですが、このような場合でも、認知症の方の気持ちに寄り添った対応を心がけましょう。このような場合「ガスコンロが故障した」と伝えるなど、本人が変更を受け入れやすくする工夫が必要です。

認知症が悪化すると、BPSDを発症する場合がある

認知症の症状は大きく「中核症状」と「周辺症状」の2つに分けられます。中核症状は、認知症になるとほぼあらわれる症状で、時間や場所、人物の把握や認識が難しくなる、新しいことが憶えられなくなるなどが代表的です。

一方、周辺症状は「行動・心理症状」とも呼ばれ、英語で表記した「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の頭文字をとってBPSDと呼ばれます。これは中核症状による強いストレスなどが原因で発症する二次的な症状です。

BPSDは認知症になった人が必ず発症するわけではなく、環境や人間関係などで発生する「不安」や「焦り」などのストレスが要因で発症するケースが多いです。発症すると、抑うつや妄想、幻覚などの精神的な症状や徘徊に加え、暴言・暴力なども強くあらわれることがあります。

認知症の治療は根治が難しいため、日頃からBPSDを発症させない、または発症しても症状を緩和させることを目的とした対応が必要です。そのためには、認知症の方への適切な対応が求められます。

ガスコンロの安全対策を行う際も、本人のやる気を尊重する対応を心がけることが大切です。料理など、本人の生活習慣と深く結びついた行動を制限すると、強いストレスを抱える可能性があり、それがBPSDの発症につながることもあります。

認知症の方への基本的な対応

認知症の方への適切な対応を行うためには、認知症に対する深い理解が必要です。これには、ガスコンロ対策もしかりで、大切なのは、本人の気持ちに寄り添った対応を心がけることです。
そこで、認知症の方への対応で覚えておくべき基本的なポイントを紹介します。

認知症の人の気持ちを理解して信頼関係を築く

認知症の症状のほとんどは、認知症の方の立場に立ってみれば十分理解することが可能です。認知症の方の訴えに耳を傾け、その気持ちに寄り添った対応をとることで、ストレスを取り除き安心感を与えることができます。そこで、時間に余裕があるときには、認知症の方が歩んできた人生や経験に耳を傾け、相手の理解に努めるようにしましょう。

このような対応は、認知症の方が抱える問題や症状が発生したときに、その訴えを理解する手がかりとなります。常に、良好な信頼関係を築くよう心がけましょう。

認知症の人の「できること」「やりたいこと」を適切にサポートする

認知症が進むと自分ではできないことが増えることから、周囲が過剰に干渉することがあります。しかし、認知症の方にも「できること」、そして「やりたいこと」があり、これを阻むと強いストレスを抱きBPSDを招く原因になってしまいます。

このような場合、安易に「それは、私がやります」といったような言葉をかけるのではなく、本人が意欲を持っていることなら、手を出さず見守るようにします。逆に「お手伝いが必要なときはいってください」「上手にできましたね」といった肯定的な言葉をかけ、本人の自尊心を高めることが大切です。

このような存在価値を確認し、自己肯定感を高める行動に対して「まだ終わらないんですか?」など、意欲を失うような言葉は絶対にかけてはいけません。

認知症の方が自分の力でできることを行い、その過程で達成感や喜びを感じることができれば、それは「生活の質(QOL/Quality of life)」を大きく向上させることにつながります。そのためにも、家族などの介護者は、認知症の方のできることや、やりたいことを適切に理解し、支援することが大切なのです。

認知症の人の「自尊心」を傷つけてはいけない

認知症になると、やりたいことが思うようにできなくなったり、伝えたいことを上手に伝えることが難しくなり、不安や焦りを抱えるようになります。そのようなとき、否定するような言葉や強制するような言葉をかけると、本人の自尊心を深く傷つけてしまいます。
このような対応が、BPSDの発症を招き、症状を悪化させる原因になることから言葉や態度には十分気をつけなければなりません。

また、聞いた内容は忘れても自尊心を深く傷つけられると、そのときに受けた嫌な感情だけは残ってしまうことがあります。この感情は、良好な関係を築く上での阻害要因になるため十分に注意が必要です。

認知症の代表的な症状(特徴)

認知症の「症状」を理解しておくことも、適切な対応を行う上では非常に重要です。そこで、認知症の代表的な症状である「中核症状」の特徴について紹介します。

中核症状.1「記憶障害(もの忘れ)」

記憶障害は認知症の早期段階で最も顕著にあらわれる症状のひとつです。これにより、新しい情報を記憶することが難しくなり、日常生活で体験した出来事や新しく覚えた知識を持ち続けることができなくなります。
このため、認知症の方はしばしば同じ質問をくり返したり、重要な約束や日程を忘れがちになります。

中核症状.2「見当識障害」

見当識障害は、時間や場所、人物に関する情報を整理し、それに基づいて適切な判断を下す能力(見当識)が低下する障害です。日付や時刻、自分がどこにいるのか、または目の前にいる人が誰なのかが分からなくなることがあります。

中核症状.3「実行機能障害」

実行機能障害は、計画立てて物事を順序良くこなすなどの以前は自然にできていた日常の行動が困難になる障害です。例えば、掃除や料理の準備などです。この障害は認知症の方に強いストレスを与え、更なる症状の悪化を招くことがあります。

中核症状.4「失語」など

失語は、ものの名前が思い出せなくなることが一般的な症状です。さらに、失語に加えて「失認」も認知症の中核症状としてよく見られます。失認は、目で見たものや耳で聞いたものを正しく認識できない状態を指します。
これらの症状は、認知症の進行にともないあらわれることが多く、精神的なストレスを増加させる原因になります。

料理は、認知症の進行を遅らせる対策になる

本来、料理は非常に複雑な作業であり、献立を考えることから、食材の準備、そして煮る、焼く、炒めるといった様々な調理手法をマルチタスクでこなす必要があります。
このように脳をフル稼働させる料理という作業は、認知症の予防や進行の遅延に効果があるとされています。料理をすることによって脳が活性化され、認知機能などに良い影響がもたらされます。
また、料理は感覚を刺激する活動でもあり、味覚、嗅覚、視覚、触覚を通じて脳が刺激されます。

とにかく早めの相談が大切

普段の生活の中で認知症を疑うような症状に気づいた場合、または認知症の症状が変わったと感じた場合は、早めに医療機関や専門機関へ相談することが重要です。例えば、もの忘れがひどくなったり、他のことに気を取られて本来の目的を思い出せないような状況が多くなったら、早めに相談します。

認知症の進行の遅延や症状の緩和には、早期の診断と治療が最も効果的です。この初期段階での対応が、長期的な「生活の質(QOL)」の向上につながります。

また、外科的な処置などにより治る可能性が高い認知症もあることから、症状に気づいた時点で早めに受診することが大切です。

認知症で困ったらここに連絡(相談先)

アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症ではBPSDの症状のあらわれ方が異なるなど、認知症の介護・ケアには専門家による正しい知見、指導が必要です。
そこで、認知症(またはBPSD)を疑うようなことがあれば、すぐに専門機関に相談しましょう。早期の対応により、発症リスクを抑えることや症状の軽減が期待できます。
また、このような対応は、本人や家族全員のストレス軽減や介護の負担軽減にもつながり、全員の「生活の質(QOL)」の向上にもつながります。

<相談機関>
もし認知症(またはBPSD)を疑ったら以下へ相談してください。

(1)まずは、一般的な医療機関(かかりつけの医療機関)
(2)認知症専門外来や、全国もの忘れ外来
(3)地域包括支援センター

また、すぐにケアマネジャーに相談できる環境であれば、詳しい症状や不安な点などを伝えて、必要な支援を教えてもらいましょう。

認知症の予防や改善に大切なのはコミュニケーション

認知症の予防や進行の遅延、さらには認知症を持つ高齢者と家族との良好な関係づくりには、コミュニケーションが欠かせません。それには、認知症への家族の深い理解と、高齢者が多様な交流の中で新しい刺激を受け、興味や関心を持つことが大切です。

外部からの刺激は認知症の予防や改善に効果的

認知症の予防や進行を遅らせる、また、認知症を持つ高齢者と家族との間で良好な関係を築くためには、様々な交流を通じて外部からの刺激を受けること、そしてその刺激により物事への興味や関心を持ってもらうことが大切です。

デイサービスなどの施設では、様々な活動やプログラムを通じて、高齢者同士の交流が促され、新たな興味や関心を見つける機会にあふれています。
まだ、利用されていない方は、このような施設の利用も、一度検討してみてください。

まとめ

「料理が好き」「料理が生きがい」といわないまでも、長い間生活習慣に組み込まれていた行動を続けることは、生活にハリを生むとともに、認知症の方の「生活の質(QOL)」も向上させます。認知症だからといって無理に料理をやめさせるのではなく、本人の気持ちを尊重したサポートを心がけましょう。

また、認知症ケアは一人(家族)だけで抱え込むべきではありません。このような相談をはじめ認知症についての悩みを解決するためには、ケアマネジャー、医療機関、専門機関など、様々なサポートシステムを利用するようにしましょう。

そして、認知症の方だけではなく、介護する家族のストレスを軽減し、自己嫌悪に陥らないためにも、デイサービスやショートステイなどの施設を利用し、一時的に「離れる介護」も検討しましょう。これらの施設には、認知症ケア指導管理士や介護福祉士がいるため安心して利用することができます。
認知症介護は一人ではなく、専門家のサポートを得ながら家族全員で取り組むことが大切です。

介護は一人で抱え込まない。
介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)、デイサービス、ショートステイを提供するアズハイム。
多職種でしっかり対応してまいります。

【監修】
川崎幸クリニック杉山孝博先生著 「認知症の9大法則 50の症状と対応策」
東京消防庁
東洋経済オンライン「料理をやめた途端「認知症リスク」が急増する訳」
厚生労働省「認知症の行動と対応について」
認知症介護情報ネットワーク「BPSDの定義、その症状と発症要因」